不育症には治療法があります

ドクター2021.6.22

不育症には治療法があります

流産とは

流産というのは決して病的なものではありません。誰でも一度妊娠すると平均15〜20%の率で流産を経験すると言われています。

流産率は女性の年齢とともに増加し、35歳で約20%、40歳で約40%、42歳で約50%と報告されています。流産の理由の多くは染色体異常胎芽・胎児の自然淘汰です。

受精卵の染色体異常率は約40%と言われていますが、その殆どが出生前に淘汰されて実際に染色体異常を持って生まれてくる新生児は0.6%にすぎません。

多くの淘汰は着床前後の細胞レベルの時に起きるので本人は気が付きませんが、中には妊娠が分かってから淘汰が起こる事もあり、それがいわゆる自然流産です。このような理由で起こる流産は病的ではなく、止める事もできないし止める必要もないということになります。

習慣流産、不育症とは

しかしながら、流産が繰り返し起こる場合は病的ではないとは言えません。

一回の妊娠で流産する確率を35歳を想定して20%と仮定すると、何も異常の無い人でも2回流産を繰り返す確率は20%の2乗で4%、3回流産を繰り返す確率は20%の3乗で0.8%となり、特に3回以上流産を繰り返す習慣流産の場合は運が悪かったで片付ける前に、何か流産を起こしやすい原因があるのではないか検査する必要があります。

もっと若い世代で考えますと、25歳の流産率は約10%ですので、2回流産の確率は1%であり、20代の方は、2回流産した時点で不育症検査を受けるべきです。

また、妊娠10週以降の子宮内胎児死亡は珍しく、この場合は一回でもその原因を検査する必要があります。このように妊娠初期流産を繰り返す反復流産や、妊娠中期以降の胎児死亡が一度でもあれば不育症を疑い、原因を調べることをお勧めします。

1人出産後に流産を繰り返す事も珍しくありません。出産経験があるのだから不育症では無い、不育症検査を受ける必要は無いと言う意見がありますが、それは誤りです。妊娠、分娩をきっかけに悪くなったり、発症する原因もあります。

不育症の原因と治療

不育症の原因は、内分泌異常、子宮形態異常、染色体異常、免疫学的異常、血液凝固異常など多岐に渡っており、系統立てた検査が必要です。

一般に不妊症の一部として扱われ、不妊症の専門医がついでに不育症を診ている事も多いようですが、不育症は高度に専門的な知識が必要であり、不妊症の知識の延長で診断、治療することには無理があります。

独立した不育症専門の外来を受診する事をお勧めします。

抗リン脂質抗体症候群とは

不育症の中での最近の一番のトピックスは抗リン脂質抗体症候群です。抗リン脂質抗体という自己抗体が体の中にできると血栓症や流産が引き起こされるというもので、最近非常に注目されています。

また、その治療法として低用量アスピリン療法や、ヘパリン療法の有用性が分かってきました。ヘパリン在宅自己注射療法は世界的に有用性も安全性も確立していますが、欧米同様、日本でも未だ施行している施設は少ないのが現状です。

不育症と血栓症

抗リン脂質抗体だけでなく、プロテインS欠乏症、抗PE抗体、第Ⅻ因子欠乏症などの血液凝固系異常は、胎盤の血栓を介して不育症の原因になり得るだけでなく、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、肺梗塞、深部静脈血栓などの重篤な血栓症の原因にもなり得ます。つまり妊娠のトラブルは妊娠中のみならず将来のより重篤な疾患の黄色信号であるとも考えられるわけです。

血栓症だけでなく、糖尿病や高血圧など妊娠中のトラブルで隠れた疾患が発見されることも珍しくありません。不育症の可能性のある人は無事赤ちゃんを産むという目的だけでなく、将来起こり得る疾患を予防するという意味でもきちんと不育症専門医に診てもらうことが肝要です。

厚生労働省 不育症研究班

不育症は、いまだ発展途上の分野であり、医師によって検査、治療方針が異なる事も多いかも知れません。

最近、厚生労働省不育症研究班にて不育症管理に関する提言がまとめられました。この中で、不十分な検査で過剰な診療が行われているケースもあり、問題であると指摘されています。

是非、このHPを参考にし、根拠のある検査、治療を適切に受ける事をお勧めします。

※Happy-Note 2011年秋号掲載

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この記事を書いた人
  • この記事を書いた人近藤克己 家電ジャーナリスト
  • 杉 俊隆
    杉ウイメンズクリニック不育症研究所所長
    1985年慶應義塾大学医学部卒業。アメリカ、メソジスト生殖移植免疫センター主任研究員、東海大学医学部産婦人科准教授など歴任。抗PE抗体、抗第Ⅻ因子抗体などを発見し、2009年新横浜で日本初の不育症専門クリニック、研究所開院。日本生殖医学会生殖医療専門医。医学博士。