妊娠糖尿病について

ドクター2021.6.24

妊娠糖尿病について

『妊娠糖尿病』(にんしんとうにょうびょう)という言葉を聞いた事があるでしょうか? 平成22年に診断基準が新しく厳しく変わり、現在妊婦さんの8人に1人が妊娠糖尿病になると言われています。平成22年以前は妊婦さんの数%しかかからない稀な病気でしたが、今や珍しくなくなりました。妊娠中は胎盤から血糖値を上げやすいホルモンが沢山出て、血糖値が上がりやすい環境になっています。そして、膵臓からインスリンという血糖値を下げるホルモンを出す事によって、血糖値をちょうど良い範囲に調整しています。しかし、必要なインスリンを出すことができない体質の妊婦さんでは、血糖値が上がりすぎてしまうのです。それが妊娠糖尿病です。ぽっちゃりさん、両親や祖父母などに糖尿病の家族がいる、35歳以上の高齢出産、などの妊婦さんは妊娠糖尿病になりやすいと言われています。

妊娠糖尿病の診断

妊娠糖尿病のふるい分けは、妊娠初期と妊娠中期の2回行います。スクリーニング検査にて血糖値の詳しい検査が必要な妊婦さんは、〝75gブドウ糖負荷試験〞という検査を行います。75gの砂糖入り甘い炭酸水を飲む前、飲んだ1時間後2時間後の合計3回血糖値を調べます。飲む前の血糖値が92㎎/㎗以上、飲んだ1時間後の血糖値が180㎎/㎗以上、飲んだ2時間後の血糖値が153㎎ /㎗以上、のうち1つでも当てはまる場合『妊娠糖尿病』と診断します。

まずは食事を見直しましょう

血糖値が高すぎると、お母さんにも赤ちゃんにも良くない影響があるので、きちんと血糖値をコントロールする必要があります。まずは食習慣を見直す事が大切です。全体的に食べ過ぎてないですか? お菓子などの間食はどうですか? 夜遅く食べてませんか? 食事のバランスは良いですか? 良く噛んで食べてますか?内科医・栄養士・助産師と相談し、食事内容を改める事から始めてみてください。野菜や汁物から食べ始め、ご飯ものは最後にするという順番を心掛けるだけでも、血糖値の上昇が緩やかになります。

治療の目標

妊娠糖尿病の治療目標は、食事をする前の血糖値が100㎎ /㎗未満、食後2 時間の血糖値が120㎎/㎗未満、血液検査にてGA(過去数週間の血糖値の平均)が15%未満、同じく血液検査にてHbA1c(過去数か月の血糖値の平均)が5.4%未満です。この目標は普通の糖尿病に比べるとかなり厳しめです。血糖値が治療目標を超えるような場合は、ためらわずにインスリンの注射を始めます。インスリン注射の針は細く短いのでお腹の赤ちゃんには悪影響はありません。どうか安心してください。妊娠が進むにつれインスリンの使用量が増えていきますが、ご出産後にはインスリン量を減らす、あるいは中止できる場合がほとんどです。

ご出産後も定期検査が必要です

妊娠糖尿病になったお母さんは、妊娠糖尿病にならなかったお母さんに比べ、将来糖尿病になる可能性が7倍ほど高いと言われています。ご出産6〜12週間後に血糖値が正常に戻っていることを血液検査にて確認するようにしましょう。たとえ血糖値が正常になっていてもその後も定期検診は忘れずに続けてください。妊娠中に増えた体重も半年から一年以内をめどに元に戻せるようにしましょう。将来の糖尿病を予防するポイントは、バランスの良い食事習慣が第一です。そして体を鈍らせないように適度な運動をするというライフスタイルを続ける事です。

※Happy-Note 2015年夏号掲載

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この記事を書いた人
  • この記事を書いた人近藤克己 家電ジャーナリスト
  • 原田 文子
    糖尿病専門医
    大阪大学大学院卒。現在、群馬県高崎市にある産婦人科舘出張佐藤病院にて、妊娠糖尿病外来を担当している。3児のママで3回とも佐藤病院で出産。